2022.01.11 15:47
虐待死で一番多いのは0歳児。そのうちの半数が0歳0日、つまり、産声をあげたその日のうちに亡くなっているという現実があることをご存知でしょうか。
熊本市にある通称・赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を運用する慈恵病院は、こうした赤ちゃんの命を守る最後の砦として知られています。先日、この病院で、国内初の「内密出産」となりうる事例があったことが報じられました。
内密出産とは、女性が身元を明かさずに匿名で出産すること。生まれてくる子どもをどうしても育てられないと追い詰められている女性が、自宅などで一人で出産をして母子ともに命の危険に晒されるといった事態(孤立出産)を目の当たりにしてきた慈恵病院が、その出産の段階から母子を助けたいとして、内密出産の受け入れを始めることを表明していました。
匿名と言っても実際には、生まれてくる子どもの出自を知る権利を守るため、病院のスタッフが丁寧に相談に乗り、説得を重ねて、出産した女性は病院のスタッフ一人にのみその身元を明かし、今回の事例では高校時代の生徒手帳、免許証のコピーをとり、それを病院で厳重に封をし、将来その子が望んだ時に開封することができるようにしたとのこと。
今回内密出産を望んだ女性は、パートナーから暴力を受ける恐れがあること、母親との関係性などから、身元を明かすことを望まず、なんとか慈恵病院に繋がり出産に至ったものです。
女性は病院で助産師や相談員に会い、「大人にこんなに優しくしてもらったことはなかった」と話したと言います。
赤ちゃんポストや内密出産については、保守系議員から、「子捨てを助長するのか」「育てるのは親の責任だ」などとして根強い反対論があり、法整備に至っていません。病院は熊本市と連携し、これまで赤ちゃんポストを運用してきたものの、内密出産については市側は、いわゆる「棄児」(捨て子)とは異なり、医師が母親の名前を知りながら匿名や仮名で出生届が出されることが法令に抵触する可能性があるなどとして、内密出産を受け入れないよう病院に求めてきました。
昨年から、先輩議員である伊藤孝恵さんとともに、法制局や厚労省、法務省の戸籍担当、刑事罰を担当する皆さんと協議を重ねていますが、結論は出ていません。私自身も、この問題に関わった当初、正直なところ、直ちに罪になるとは役所は言っていないのだから、国会で取り上げることなく、なるべく穏便に病院と地元自治体がこれまでのように連携をして対処していくのが結果として当事者の利益になるのでないかと考えていました。ただ、熊本市は、「国が罪ではない」とはっきり言ってくれなければダメだ、との姿勢を崩しておらず、病院側も、それであれば国に法整備をして欲しいと重ねて訴えています。
0歳0日で産声を塞がれて亡くなる子どもたち。
そうした痛ましい事態を防ぐために何ができるのか。
そもそもそうした事態に至る前の段階でできることの選択肢がまだまだ日本では少ない現状にも目を向ける必要があります。
世界では使われている、女性が主体的に使用できる避妊方法の選択肢が少なく、価格も高く、アクセスが悪いこと。
避妊に失敗したと感じた時に使える緊急避妊薬も医師の処方箋が必要で、価格も1万円前後と高額であること。
中絶には相手の男性の同意が原則との運用が長く続いたことから、男性の同意なしには手術を受けられないと説明する病院がまだまだあること。
その背景には、いまだ「堕胎罪」という女性にのみ適用される罪があること。
妊婦検診にも自費負担分があり、検診を受けずに出産期に至る女性があること。
こうした日本の現状にも関わらず、赤ちゃんを死にいたらせてしまった場合、女性だけが罪に問われる現実があることー。
検診を受けずに出産期を迎えた妊婦を、国は「特定妊婦」として様々な支援に繋ごうとしています。しかし、それでも、およそ女性の権利や母子の健康のために必要な制度や仕組みが整っているとは言えない日本で、女性たちは望まない妊娠をし、不安と恐怖と痛みに耐えその末に子どもを死に至らしめ、結果として罪に問われるという事態が、今の時代に起こっています。
こうした女性を責めたり、罪に問うことではこうした事態を防ぐことはできません。
女性を責めずに支援すること。そこに至るまでの彼女の人生の苦難に思いを馳せて、ジャッジすることなく助けること。望まない妊娠をしてその子どもを殺したいと思っている女性などどこにもいないと私は確信しています。その女性がそこに至らないための方策を一つひとつ講じていくことが必要です。そして、生まれてきた命を救う最後の砦として、内密出産、赤ちゃんポストが法的に保護される必要があります。
野田聖子大臣もこのことに触れ、意欲を見せているとの報もあります。
保守系議員の声が高い与党の中で大変なご苦労があることと思いますが、何より守られるべきものは子どもの命という当たり前の考えのもとに、外野から少しでも後押しができるように働いていきたいと思います。
写真は伊藤議員と法制局、法務省の皆さんとの協議