2024.12.13 13:26
「日本で里親委託が進まない理由の一つは実親の同意が取れないというものです。これはどうしたら解決されるでしょうか」
私の問いに対して、アメリカから来た講師の言葉はあまりにも明確でわかりやすいものでした。
「例えば、『子どもに食事を与えないでください』『この子に教育を受けさせたくありません』というような、子どもにとって害となる要望が叶えらることはないでしょう。それと同じように、子どもにとって有害であると明らかになっている施設養育を選択する権利は、実親にありません」
この日開かれた「児童の養護と未来を考える議連」では、親もとで暮らすことができない子どもたちの支援を行なっているアメリカの団体の代表者が来日し、お話を伺いました。
日本では、虐待等の様々な理由で保護される子どもたちの養育は原則里親のもとで行うと国が定め、現在、その実現のための後期5年間の計画が各都道府県で定められようとしています。
国は2029年までに就学前の子どもたちの里親への委託は75%、小学校入学以降の子どもたちについては50%にすると目標を定めています。
ただ、現状での委託率は全国で23.5%(2021年度末)と低く留まっており、また、各都道府県や自治体毎の達成率もばらつきが見られ、取り組み状況に格差が生まれています。
私自身は、親もとで暮らすことができないのならば、どこで生まれ、どんな状況にある子どもたちにも温かい家庭が与えられるべきであると考え、そのために所属議連の皆さんのご指導も頂きながら努力を続けています。
就学前の子どもたち、特に0歳から2歳までの乳児期に特定の大人に養育をされないこと、シフトケアと呼ばれる複数の大人がシフト制で勤務する施設で集団で養育されることにより、その子どもの人生にとって心身の健康や人間関係の構築に長期に影響を与える愛着障がいをもつことになるケースが多いということが、多くの研究から明らかとなっています。もちろん、各養護施設のスタッフの方々は厳しい環境に置かれ発達上の困難を抱える子どもたちもあるなか、献身的に子どもを守り育て慈しんでおられ、私も感謝の気持ちでいっぱいです。ただ、それは特に幼少期、長期に渡ることはあってはならないと考えます。アメリカやイギリスでは既に、3歳以下の子どもが施設で暮らすケースはほぼなくなっています。このような理由から、もともと乳児期の子どもたちを養育する施設を持たなかった日本の自治体のいくつかは、乳児院を新設することなく、里親家庭への委託を進める努力を続けてきました。一人ひとりの子どもの最善の利益のために、あらゆる努力をすることが関係機関に求められています。人権の観点からはもちろんですが、少子化で将来の社会の担い手が減っている現状において、一人の人材も取り残す余裕など日本にはないはずです。
「子どもが社会的養護下に入った時から、政府が彼らの親になる。精神的に健康で幸せな大人になるように行政が努力する義務がある」
講師はそのように述べました。
「有害だと明らかになっている集団的養育に税金が使われることをやめさせるために、それを違法とする連邦レベルでの法改正が必要だった」とも。
それとともに、施設養育を終わらせるだけでは十分ではなく、そのお金が家族を支えるために使われること、実親や里親の支援、何より子どもへの支援のために柔軟に流動的に使うことができるようにしなくてはいけない、と言われました。
一方で、日本では、塩崎恭久元議員によると「子どもが必要とする支援は異なるのに、里親への手当ては日本では一律とされている。一人ひとりニーズは異なると話しても、こども家庭庁には『子どもに値札をつけるのか』ということも言われた」と。
アメリカでは、もちろん州によりながらも、子どもが必要な医療や療育といった必要な支援を受けられ、また、才能を伸ばすための習い事などにも支えるよう公的な資金が使われるとのこと。こうした経済的な支援は、里親のみならず、親族里親や養子縁組の場合にも、必要に応じて査定し交渉して18歳までいくらと決める、あくまで子どものニーズに対しての措置費のようなものであり、それのみならず、家庭の経済状況も考慮され手当されます。親が自分の子どもにしてあげているだろうと思うことを同じように里子にも当たり前に授けるための援助があることが大切で、それは日本では手当が支給されない親族里親や養子縁組のケースであっても例外なく、一人ひとりの子どもの個別のニーズに沿って支援が受けられる仕組みが整えられているのです。
里親に対する支援がまだ十分でない現状においては、里親との関係が不調に終わる例もあるとされ、慎重に進める必要がありますが、支援体制が充分でないからといって、その代替が施設養育であってよいはずはなく、特に、乳児期に特定の大人との愛着関係を築くことがその後の人生に決定的で長期的な影響を及ぼすということを考えれば、大人たちの都合で子どもたちの権利が侵害されることがあってはならないと考えます。
講師から頂いたキーホルダーには、
“Children deserve families”
「子どもには家族を持つ権利がある」
と書かれていました。
自治体によって抱えている事情は様々に異なるものですが、国が目標を定めたのは、それぞれの取り組みに委ねていてはいつまでも委託率が上がらず、その間に損なわれるこどもたちの権利は見過ごすことができない、生まれた場所によって受けられる支援が大きく異なることがあってはならないという強い危機感からでした。
前期5年間で、当初全国で最下位に留まっていた秋田県の里親委託率は25%となり、全国の中位に上がってきました。この間の多くの関係者の方のお取り組みと日々のご尽力に、里親登録へと歩みを進めてくださった多くの皆様に、そして、里親として日々子どもたちの養育に粉骨砕身、献身的に愛情を注いで養育に励んで下さっている皆様に深く感謝を申し上げます。
秋田県を含めた全国の自治体が、国の目標値である委託率を自治体の目標として掲げ、その実現のために最大限の努力をすることを後押しできるよう、人生の初めに大きな苦労を背負う子どもたちのために、私自身も可能な限りの努力を尽くして参ります。
写真はアメリカでの取り組みをお話しくださったユースローセンターのキャロル・ショーファー氏、議連の前会長である塩崎恭久元議員と