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【「クマ問題」はクマの問題にあらず】

2024.02.21 13:06

先月秋田市にて行われたクマ問題に関する講座に出かけてきました。

県庁でクマ対策にあたる専門官の方のお話をまとめて聞けるまたとない機会であり、私も参加してきました。主催者によれば、60名の定員に100名を超える申し込みがあったとのこと。横手や由利本荘など県南からも参加者があり、「クマの忌避剤はどれが有効か?」など身近に危険を感じておられることが窺える質問も出ていて、関心の高さを実感しました。

お話の中で、「『クマ問題』は実はクマの問題ではない」という言葉が強く心に残ったので、私自身の整理も兼ねて皆様にもご紹介したいと思います。

<昨年のクマの出没は異常>

ここ10年のクマによる人身被害は毎年約11件、しかし昨年は70件。出没通報件数(出没数ではなく、あくまで警察に通報があった件数)も、例年と比べるとグラフが振り切れてしまうほどであったそうです。

この冬の間も毎日1、2件の目撃情報が寄せられており、少し前にも秋田市御所野にてクマが倉庫に居座る事案が発生しました。

空腹で冬眠しない?温暖化で冬眠しない?は、どちらも間違い、とのこと。

冬眠は、食べ物の乏しい季節を乗り切るクマの戦略であり、起きているとエネルギーを消費してお腹が減るだけなので、食べられなければ寝るし、食べられるなら起きているのだそうです。

「集落に降りれば食べるものがある」

そう学習してしまったクマがいることが問題だそうです。

専門官によれば、これまでは秋田のクマはあまり柿を食べなかった、しかし、あまりにも食べる物がなくてウロウロしているうちに、クマに柿の存在がバレてしまった、柿があるのでいつまでもそれを狙って起きている。柿の実は雪が降ってもついている→だからまだ冬眠せずに起きている、ということなのだそうです。過去の冬場のクマの出没ケースからは、小屋の内外の農作物や米ぬか、コンポストにも注意!とのこと。

また、2000頭程の捕獲が行われた昨年。1歳の子グマは母グマと一緒に冬眠するため、母グマだけ駆除されたり、親とはぐれてしまったりして、冬眠の仕方がわからない子グマもいるのかもしれない、とも。

<クマの出没・事故が急増した原因は?>

クマの出没が相次ぐのは、森が開発されたことによるものでしょうか?

実は秋田の森の面積は30年間変わっていないといいます。

ナラ枯れが広がっていることも、確かに影響がないわけではないものの、クマの目撃のピークは6、7月にもあり、ここはドングリの不作は関係しない時期。

それではクマが増えたのか?

恐らく個体数の大きな増減はないとのこと。

ただ、「以前は山にいたクマが、人間の生活圏側に生息域を拡大してきた」ということが、目撃情報が激増した要因だそうです。

<変わったのは何か>

参考資料として配られた県内のとある集落の50年前と今の衛星画像を比較すると、昔は存在していた山と集落との緩衝地帯が明らかになくなっています。

木も草も伸び放題で、クマは身を隠したまま人里に降りてくることができる、とのこと。

変わったのは、実は人間の暮らし。

おやつはコンビニに行けばいくらでも選べる。

昔はおやつだった庭の柿をとらなくてもよくなった。

クマは山にエサがなく、エサを探して降りてきて、柿を見つけた。

クマにとって、身を隠せる繁み、食べ放題の畑や庭の実のなる木々。

夜も、山に帰らずとも、エサのある人里近くで休める隠れ家(茂み)も見つけることができる状態に。

<ここでの暮らしをどうしたいのか>

人間の生活が変わる中で、柔軟にそれに適応してきたクマ。

だから、クマ問題は実は「クマ」の側の問題ではない。

「人間」が、秋田に住む私たち一人ひとりが、これからここでの暮らしをどうしたいのか、ということにかかっているのだ、とー。

山の管理などは一個人では出来ないものです。

緩衝地帯の管理なども、団体や地域で一緒に管理をするほうが有効です。

個人にできるのは、庭の柿や栗の木と畑などの農作物の管理。

秋田でクマ対策専門官として働く中で印象的なのは、クマを悪く言う人がいないことだと言います。

人身被害に遭った人ですら、

「何もしなければかわいい」

「山にいてくれたらいいんだけど」

「走って逃げていく(クマの)お尻が可愛かった」

一方、農作物被害の現場では、経済的被害の大きさから「駆除しろ」との声が強く、出てこないようにするための方策に耳を傾けてもらうことの難しさを感じることもあるとのこと。

世界を見渡しても、これだけの人口があり、同時にクマの生息数もこんなにあるところも珍しいのだそうです。だからこそ、その秋田に住む人たちが、これからの暮らしをどうしていきたいのかを考えて行動することが大切だと言います。

クマとの共生ー。

「共生」の言葉のイメージは、手を繋いで仲良く、というものですが、実際は「どう上手に距離をとって住み分けるか」ということに尽きるそうです。

山から降りてこないように、緩衝地帯も設けた上で、クマを誘引するような食べ物を家の周りに放置しないこと。それでも出てきてしまったクマは有害捕獲する。そうやって、人とクマとが住み分けをするための理解・努力を一人ひとりが継続していくことが大切とのことです。

怖い思いをしても、「逃げていくお尻がかわいかった」と言える秋田県人。

今回お話を聞き、正しい知識に基づいた対策をとることで、クマとの共生を実現していくことができると感じます。

世界でも珍しいというこの自然豊かな秋田に生まれたものの一人として、クマとの共生を図るため、こうした科学的で実践的な知識の普及啓発の一助となれるよう努力を続けて行きたいと思います。

追伸:素朴な質問にも答えていただける「出前クマ講座」は町内会などの団体で申し込むことで全県での開催可能とのこと。気になる方は是非問い合わせをされてみてはいかがでしょうか。


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