ブログ

夢を諦めないで済む社会

2020.07.17 12:20

「夢のために」1日1食もやしで済ませ…
親の援助なくコロナで困窮する専門学校生—。

胸が締め付けられるその記事を読んだのは5月初めのこと。
この春、親元ではなく児童養護施設で育った18歳の女性が施設を巣立ち、児童相談所で働く夢を叶えるために専門学校へ進学したものの、コロナ禍でアルバイトがなくなり、生活費や学費が工面できず、退学の危機に瀕している、という内容でした。
彼女は貸付制度を利用しようと役所や社会福祉協議会に相談したものの、未成年者で親の同意が得られないことを理由に断られた、と。

そこで浮かび上がったのは、頼れる大人がいない未成年の若者たちは、最後の頼みの綱である社会福祉協議会からの貸付も受けられないという問題です。

私の家庭も決して裕福というわけではなかったので、大学に進学するときは育英会の奨学金にお世話になりました。当時は当たり前のことのように思っていましたが、借りられたのは保証人になってくれる親がいたからです。
もし、頼りになる親や大人がおらず、保証人になってくれる人がいなかったら進学の夢は諦めていたかもしれません。

誰にも予測のつかなかったコロナ禍。
自己責任には全く当たらないこの女性のような方が置かれた状況をなんとかしなければと思いました。

社会福祉協議会に勤める友人とも話しましたが、未成年が勝手にお金を借りられないようにするというのは、もともと子どもを守るためにある民法上の決まり。ただ、それが自立しようとする未成年の若者たちの障壁となっていました。
施設退所者向けの貸付制度を詳しく見ると、未成年が貸付を受けるためには親権者、または法定代理人の同意が必要であり、それが取れない場合には出身施設の施設長の意見書等でも可能、という運用がなされていました。
柔軟な対応が施されていると思います。
しかし、児童養護施設退所者は、必ずしも出身施設と良好な関係が築けているわけではありません。中にははっきりと「経済的なことで今後施設を頼ることのないように」と言われて退所する子もいます。

頼れる親や大人がいない、出身施設との関係も良くない、誰にも頼ることができない。そんな子でも貸付を受けられるように運用を変えてもらえないかー。

ただでさえ忙しい厚労省に連絡をすることは憚られるものの、何度も厚労省に働きかけました。
厚労省は当初、「民法で決まっていることなので、変えることはなかなか難しい」との答えでした。
諦めきれず、以前から参加している社会的養護に関する超党派議連で、改めてこのことを指摘し、問題を共有して下さった先輩議員からも、改善を促す発言がありました。
そして、数日後にあった自殺対策の超党派議連でも改善を求める発言をしました。厚労省担当者は、「ご指摘を受け止めて検討したい」とそっけないもので落胆していたところ、問題意識に共感してくださったのか、与党の、私から見れば大先輩の議員が「今のような具体的な指摘に、そんな通りいっぺんの回答をせず、ちゃんと検討して回答をするように」と援護してくださいました。

すると約2週間後、厚労省から連絡があり、親や施設長の同意等がなくても民間支援団体の意見書があれば貸付を受けられるようにする、との知らせをもらいました。
担当課が異なる、施設退所者に限らない未成年への生活福祉資金(緊急小口資金、総合支援資金等)の貸付でも同様の運用をすることとしたとのこと。

私の指摘というよりは、複数の与党議員の援護があってこそだなと思いながら、それでも、きちんと問題意識をもって具体的に指摘すれば、それに共感してくださる方が生まれ、改善につなげることもできると実感しました。
そして何より、私に直接は見えていませんが、誰にも助けを求められない深刻な状況にある子に救いの道を開けたことに嬉しさを感じます。

このコロナ禍で、弱い立場の子どもたちが、さらに追い詰められる事態となりました。
冒頭の記事のような報道だけでなく、地元の児童養護施設の方からも「施設を退所した子どもたちはどうしているのか。連絡がつく子にはふるさと小包のように食料などを送ったりしているが、連絡のつかない子たちが心配」といった声が寄せられました。

本来であれば、未成年の若者が貸付に頼らざるを得ない状況をつくりたくありません。でも、貸付を受けることで、まずは一息ついて考える余裕が生まれること、退学などの不本意な選択をせずに済む可能性が生まれたことは良かったと思いますし、上記の貸付は、条件によって返済が免除される規定もあります。

経済的な理由から夢を諦める若者を一人でも減らしたい。
それは、その若者一人の人生を救うことはもちろんですが、社会にとっても大きな損失を避けられると考えるからでもあります。
これからも子どもたちや若年者の可能性を守るために働いていきたいと思います。

7月17日
てらたしずか

写真は里親制度普及のためのポスターの前で。
秋田では、親元で暮らすことのできない子どもの実に約9割が施設で日々暮らしています。
多くの方に関心を持っていただけますように。


トップへ戻る